国際誌にトドのカナタの論文が、初めて掲載されました
2025年10月3日に、トドのカナタの研究論文が国際電子ジャーナル「International Journal of Comparative Psychology」に掲載されました。
本研究は広島大学院人間社会科学研究科の神原利宗氏とともに執筆したもので、査読をクリアし10月8日に掲載されました。当園のトドの研究に関する国際論文では4本目、カナタに関する研究では初めてとなります。
掲載論文はコチラ
・研究の背景は?
トドをはじめとするアシカの仲間は、長い授乳期間をもち、赤ちゃんのころにトレーナーが介入してトレーニングを行うことが難しい特徴があります。そのため、赤ちゃんのトドの学習能力については、野生下での観察を除いて知られていませんでした。
当園で生まれたトドのカナタは、母親が母乳で育てることが困難であったため、飼育員による人工哺育で育てられました。授乳期からトレーニングを行える特殊な環境から、貴重なデータを得られる可能性がありました。
●本研究はこれまで前例がなかった、赤ちゃんのトドの学習能力について調べたものです。
・どのように調べたのか?
ハンドサインとボイスサインを同時に与えて9種類の動作でトレーニングを行いました。その後の実験で以下の3つの条件でカナタにサインを与え、正解率を調べました。
①ハンドサインとボイスサイン同時
②ハンドサインだけ
③ボイスサインだけ
目で見た情報と、耳で聞いた情報。どちらが学習において重要なのかを調べました。実験は男女3名ずつ、合計6名で行い、親密度や性別による影響を考慮しました。
資料映像:9つの動作とサイン
・赤ちゃんにどうやってトレーニングした?
最初はホースの水を使うなど遊びの中で動作を引き出し、ミルクを使って教えていきました。その後は、目印となる道具や手を使ったトレーニングも行い、生後半年までに9種類の動作ができるようになりました。
各動作ができるようになった後は、決められた手の動き(ハンドサイン)と声(ボイスサイン)を同時に与えながら動作とむすびつけ、サインに合わせて動作を行うことをトレーニングしました。
資料映像:ホースの水で遊ぶカナタ
資料映像:はじめてトレーニングした”バイバイ”
資料映像:”あーん”のトレーニング
・研究でわかったことは?
●トドが0歳の仔獣期から、成獣と同じように動作とサインのつながりを学習し、弁別できる能力をもつことが、世界で初めて明らかになりました。
・トドのカナタは生後半年までに9種類の動作とそれに対応するサインと学習し、トレーナーの性別や親密度(接した時間)によらず高い精度でサインを識別することができた。
・ハンドサインとボイスサインを同時に与えた場合、およびハンドサインのみを与えた場合の正解率は、9種類の動作全てで基準となる正解率を有意に越えた。
・ボイスサインだけを与えた場合の正解率は、3種類の動作を除き基準となる正解率を下回った。
本研究に関するお問合せ

城崎マリンワールド
シーズー 佐々木雅大
Tel:0796-28-2300
Fax:0796-28-3675
Email:seazoo@hiyoriyama.co.jp

広島大学大学院
人間社会科学研究科
心理学プログラム
神原 利宗 氏
Tel:082-424-6280
FAX:082-424-3481
E-mail:tkambara@hiroshima-u.ac.jp
今後も、飼育下だから研究できるトドの能力の解明にチャレンジしてまいります。
*International Journal of Comparative Psychologyとは。
動物心理学や比較認知学を扱う学術誌です。受理されるためには、編集部による審査・専門研究者数名による査読をクリアする必要があり、新規性が重視されます。掲載が受理されたことで新たな発見と認められた事となります。