ijo Vol.15
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ijo Vol.15

歩調を合わせて

カリフォルニアアシカのコジロウは来園者アンケートで圧倒的な人気を誇る。イルカ・アシカショーの出番がくると、シューッと華麗なスライディングで登場。アシカならではの優れた身体能力を次々に披露し、客席を沸かしている。「ボイス」というプログラムでは自分の名前が呼ばれると、かぶせ気味に「ウオォォー!」と反応。スピンでは120㎏超の体を前足の力だけで持ち上げ、後ろ足が浮くほどの速さで回転する。いつも手を抜かず全力で取り組む様子は何とも愛らしい。

そんな姿からは想像できないかもしれないが、最初からスターだったわけではない。コジロウが生まれたのは動物園。自然に近い展示が一般的なため、トレーニングは人慣れから始めなければならなかった。人のそばに付いて歩く「リーディング」、トレーナーが離れても台の上に留まる「待て」など、基本動作を覚えるだけで半年以上。デビューできたのは3年後のことだった。

その後も順調とはいかず、バックヤードで成功したはずの種目なのに、スタジアムに出た途端にできなくなったことがある。BGM・歓声・他の生きものの気配など、様々な環境の変化に怖気づいて舞台裏に帰ってしまうのだ。飼育員たちは決して深追いせず、改めて日々のトレーニングで観客役のスタッフを配置したり、朝夕の明るさの違いに慣れるよう時間帯をずらしたりと、画一的な方法ではなく、コジロウに合いそうな方法をあれこれ試しながら、舞台に出られる時間を少しずつ伸ばしていった。

歴代のスターたちに比べて時間がかかった要因は、性格によるところも大きい。後輩のナナマルは好奇心旺盛、同じアシカ科でもオタリアはおっとりとしており、あまり細かいことは気にしない。警戒心が強く几帳面なコジロウは、飼育員の立ち位置や指示のタイミングなどいつもと違うことが起きると、大好きな魚を食べないことや、ショーが終わってもバックヤードに戻らなくなることがある。

毎日、一番近くで接する飼育員だから気づくサイン。幼獣時代からの担当者はコジロウの性格を念頭に置きながら、ゆっくり、ゆっくり、共に歩んできた。その過程を「一進一退」と表現しつつも、あっという間の14年だったと、笑みを浮かべながら振り返った。生きものが本来持つ優れた能力を「ショー」という形で見せられるようになるかどうかは、素質の問題ではなく、人間の接し方によって決まる。

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