ijo Vol.13
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ijo Vol.13

私たちが、いのちに教えられたこと

昨年の春に開館した「日和山海岸ミュージアム」には、園内のフンボルトペンギンの家系や年齢を表した展示があり、小さなペンギンの模型にはそれぞれの名前と共に「3646」「2418」といった数字が書かれている。これは、飼育下にある希少動物の国内血統登録番号で、人間で言うならばマイナンバーにあたるものだ。役割の一つに「種の保存」を掲げるJAZA(動物園水族館協会)は保護の必要な動物の戸籍簿を作成し、各地の水族館・動物園が協力して計画的な繁殖を行っている。JAZA 会員の当園でも種の保存の一翼を担うため繁殖に取り組み、フンボルトペンギンは大小4つの家系・48羽を飼育している。

しかし、10年前には30羽前後で推移していた。繁殖できるペアが高齢化し、血縁のある個体も多くなっていたので、年に2羽生まれたら良い方だった。その状況を打破してくれたのは「ケルビン」と「ハム」のペアである。ケルビンは2004年生まれのメス。国内の動物園から受精卵を譲り受け、園内で孵化した。ハムは2005年生まれのオスで、4歳のときに他の動物園からやってきた。ハンサムかつワイルドな感じがよいのか、とにかくモテる。

2羽がペアとなったのは2010年の秋。はじめての卵を大事に温めていたが、母親のケルビンは自分の影にも攻撃するほどナーバスで、残念なことに破卵してしまった。子育てに不慣れな若い個体は神経質になることがあるが、担当チームは水銀灯が影響しているという仮説をたて、光を遮るため上に板を被せたところ、翌年から落ち着いて抱卵・育雛するようになった。

産卵からふ化までの約40日間、飼育スタッフは毎日の検卵を欠かさない。卵を抱く親鳥のおなかの下に直接手を入れてヒビがないか確認するため、くちばしで突かれて担当者の手はいつも傷だらけだ。寛容なハムと違い、ケルビンは大切なわが子を守ろうと突いてくるのだが、まったく容赦ない。

卵の中から自分で殻を突く嘴打ち(はしうち)が始まると、いよいよ、ヒナの誕生である。ふ化には早くても半日、長ければ丸一日かかる。手間取ると薄皮が乾燥し、羽が卵にくっついてしまい出づらくなるので、飼育スタッフは、時々、霧吹きで湯をかけて乾燥を防ぐ。あとは、親が給餌で卵から離れた隙に、穴の広がりが順調か、ヒナが動いているかといったことを確認するくらいで、見守るしかない。栄養を摂るための卵黄嚢がヒナの体に吸収されていないと危険なので、殻を割る手助けはできないのだ。ところが、ケルビンはおなかの下に卵を置いたまま体重をかけズリズリと転がす。他の個体では見られない行動で、ヒナを助けるためとはいえ、ケルビンだからなせる業なのだろう。

城崎マリンワールドには数多くの繁殖プロジェクトの挑戦を通して“いのち”から学んだことが膨大に蓄積されている。私たちは、それをミュージアムで語ることにした。

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